マーケティングのターゲットは個人から組織へ
ABM(アカウントベースドマーケティング)への期待と、MA、SFA、CRMとの関係を読み解く

技術コラム

コンサルタント

マーケティングのターゲットは個人から組織へ
ABM(アカウントベースドマーケティング)への期待と、MA、SFA、CRMとの関係を読み解く

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マーケティングと営業活動を理論的に整理する

「MAとSFAとCRM どのシステムを導入すべき?」では、MA(Marketing Automation)、SFA(Sales Force Automation)およびCRM(Customer Relationship Management)各システムの特徴と用途について説明をしました。では、これらのシステムはそもそもどのような考え方が起点になっているのか?理論的な枠組みで見ていきたいと思います。

マーケティング活動、営業活動に共通しているのは「個人」をターゲットにした活動であることです。個人に対する関心、特に「なぜその商品を購入するのか?」という点への関心は古くから存在し、消費者行動研究の中ではCIPモデル(Consumer Information Processing Model)として論じられてきました。CIPモデルは個人が商品やサービスを購入するプロセスで、どのように情報に接触・処理していくのかをモデル化したもので、多くの研究者から様々なCIPモデルが提案されています。ここで、代表的なCIPモデルとしてKotler & Keller(2006)が提唱したモデルを紹介します。

CIPモデル

(Kotler & Keller 2006を元に作成)

このモデルでは「購入前:問題認知・情報探索・代替案評価」、「購入:購入意思決定・実行」および「購入後:購入後評価」という5つのプロセスで構成されています。補足ですが、誰もがこのようなプロセスを経て購入する訳ではなく、消費財のような単価の安い商品では「問題認知」と「購入意思決定」が同時に行われるようなこともあります。例えば、アマゾンから「おすすめ商品」メールが飛んできて開封したところ、おすすめされた本が気になってそのままカートまで進んでしまう、このような認知と購入を同時に行うケースは皆さんも経験されているのではないでしょうか。話を戻しますと、このようなモデルは消費者の行動を説明しやすくするために、多様なパターンで起こる購入プロセスを単純化したものであると捉えると良いでしょう。

次に、このCIPモデルに「顧客の状態」を加えて見ましょう。ここでは田村(2013)の定義を紹介します。田村(2013)では、購入前の顧客を「潜在顧客」「見込み客」と区分しています。潜在顧客は、企業側が自社の製品・サービスについてコミュニケーションできない顧客としています。例えば、MAで言うところのアノニマスリード(氏名、連絡先などの情報が取得できていない匿名リード)にあてはまります。一方、見込み客は、企業側が自社の製品・サービスについてコミュニケーションできる顧客としています。例えば、MAで言うところのネームドリード(氏名、連絡先などの情報が取得できているリード)にあてはまります。この顧客の定義を先ほどのCIPモデルに統合すると、以下の様に整理できます。

(Kotler & Keller 2006, 田村 2013を元に作成)

このように整理すると、一言で「顧客」といってもステータスによって大きく違うことが良く分かると思います。更に、マーケティング活動と営業活動と、先に説明をしたMA、SFA、CRMのシステムも当てはめ、より実務的な視点で整理をしてみましょう。

上記のように整理すると、皆さんが携わっているマーケティング活動、営業活動は、どのような状態の顧客に対し、何をすべきか?それを実現するためにどのようなシステムが必要であるか?が明確になると思います。

マーケティングの新たな課題

前半で説明したように、マーケティング活動、営業活動は「個人」を対象に実施される事が殆どで、各システムもそれをベースに作られています。特にMAでは「リードナーチャリング」と表現されるよう、個々のリードの属性、行動をベースに、個人に対してナーチャリング施策を行います。一方、このように個人をターゲットとしてMAの運用をしていると、時々次のような事が発生します。

  • 「A社のリード鈴木さんと佐藤さんの2人がHOTになった。2人とも肩書情報がないので、どちらがキーマンなのか?どちらにインサイドセールスを掛けて良いのか分からない」。
  • 「最近B社が積極的に当社製品の情報収集をしているようで、B社のリード数名のスコアが一斉に上がって来ている。これを個人のスコアでなく、会社で括った”B社スコア”として見ることはできないだろうか?B社は大企業なので、個人単位でなく会社としての動きを追っていきたい」。

これらの共通点としては「個人」でなく「組織・企業」単位で顧客を捉えたいというニーズです。特に、組織購買が前提になる大企業をターゲットにナーチャリングをする時に生じるニーズです。これは、以前のブログで紹介した「ABM(Account Based Marketing)」に繋がります。ここで、改めてABMの考え方を確認しましょう。ABMの概念を簡単にまとめると以下の様に言えます。

  1. MAに取り込まれるリード情報に、有償の第三者データや、独自のクローリングで集めた公開情報などの外部データを紐付けることでリードの属性情報をリッチにすること。
  2. リードを個人単位で見るのではなく、企業単位、組織単位で見ることで、キーパーソンの発見や、企業内でのオポチュニティを発見する。

MAの枠に絞ってみると、これまでのMAとABMでは何が違うのでしょうか、当社の視点で整理すると以下のようになります。

従来のMAとABM

従来のMAは「個人」を対象としていましたが、ABMでは「組織・企業」を対象とします。「個人のリードを企業単位で括れば良いのでは?」と思われるかも知れませんが、そんな単純な話ではありません。組織・企業を対象とするには、組織・企業をユニークに見分ける詳細な情報が必要になります。例えば、正式表記の会社名、住所、業種情報、企業規模など、「当社が追うべき企業であるか」を見極める企業情報が必要です。これらの情報は、お問い合せフォーム、名刺情報、イベント参加リストなど従来のリードソースから取得することが難しく、有償の企業データや、該当する企業のWebサイトなど、第三者の情報を収集する必要があります。これを便宜的にData Mashupと定義します。また、従来のリードソース、第三者のリードソースから収集したデータは各々データの構造が違うため、それらを統合・整理し、MAやその後のSFA、CRMで活用できる形に整える必要があります。これを便宜的にData Clean & Enhanceと定義します。

これからのマーケティングと営業活動に必要なシステム

従来のマーケティングと営業活動には、MA、SFAおよびCRMが有効であると説明してきましたが、ABMを志向するならば、Data MashupとData Clean & Enhanceに該当するシステムも必要となります。「データを集めてきて整理するだけなら、ExcelやAccessでも対応できるのでは」と思われるかもしれません。答えはYesですが、人の手で作業をするとなると相当の時間が必要です。また質の高いデータに仕上げるには相応のスキルが必要となります。早く、正確に行うにはやはりシステムが必要と言えるでしょう。

次回以降のブログでは、Data Mashupについて、その必要性と具体的な方法について説明をしたいと思います。

【参考文献】
Philip Kotler, Kevin Lane Keller (2006). Marketing management,12th ed., Pearson Prentice Hall.
田村 直樹(2013)『セールスインタラクション』碩学舎.

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