~コトラー氏登壇~ ワールドマーケティングサミット(WMS) 2017 in トロント参加レポート

イベントレポート

マーケティング担当

~コトラー氏登壇~ ワールドマーケティングサミット(WMS) 2017 in トロント参加レポート

マーケティング担当

先月の11月16日(木)に、カナダのトロントにてWorld Marketing Summit (以下WMS)が開催されました。

WMSとは、マーケティングの父といわれるフィリップ・コトラー氏により2010年に設立されたもので、2012年より同名のイベントを毎年実施しています。WMSは、「Better world through marketing」がロゴの下に掲載されているように、単なるビジネスとしてのマーケティングというだけでなく、「マーケティングを通して世界を良くしていこう」というビジョンを掲げています。

WMSは、2012年はバングラディシュ、2013年はマレーシア、そして2014年から2016年は東京で開催されました。今年は開催国が増え、日本を含む5か国での開催が予定されています(東京は12月8日(金)開催)。今回のブログでは、WMSの本部があるカナダで一足早く実施されたイベントの様子をお伝えします。

IS MARKETING DEAD? NEW MARKETING STRATEGIES FOR DISRUPTIVE TIMES

今年のWMSトロントのテーマは「IS MARKETING DEAD? NEW MARKETING STRATEGIES FOR DISRUPTIVE TIMES(マーケティングは死んだのか?破壊的時代における新しいマーケティング戦略)」です。開会挨拶のスピーチで、「昔のマーケティングは一つの良いアイデアがあればよかったが今はそうでなはなくなっている。現代のマーケティング手法は断片化・複雑化してきている」と語られていましたが、そのような状況を象徴したタイトルではないかと思います。
ちなみに、今年の東京は「Transformation Through Innovation ~イノベーションがもたらすマーケティング変革~」であり、国によってテーマが異なるようです。

オープニングキーノート:フィリップ・コトラー氏 基調講演

オープニング基調講演は、フィリップ・コトラー氏によるキーノートです。「破壊的時代におけるマーケティング戦略」として、現在のマーケティングの定義や有効なフレームワーク、デジタルツールの利用、新時代のマーケティングの特徴、外部要因への注力など、幅広い内容について語った約1時間にわたる講演でした。

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新しいマーケティングにおける特徴

講演のなかでコトラー氏は、新しいマーケティングの主な特徴として、以下の8つの項目について紹介しました。

  1. モバイルマーケティングへの集中
  2. カスタマージャーニーにおけるデータの収集
  3. ブランドコミュニティの構築
  4. ソーシャルメディアプラットフォームにおける広告利用
  5. コンテンツ管理と配信
  6. マーケティングオートメーション(MA)の利用
  7. 高品質なサービスとしての評判の獲得
  8. 信頼できる企業としての評判の獲得

カスタマージャーニーにおいては、3つから4つ程度の一般的なジャーニーを見つけ、その中で広告やメールなどタッチポイントを探していくのが良いとのことです。具体的手法については触れておりませんでしたが、あまり多くのパターンを作りすぎない方がよいのでしょう。MAについては、コトラー氏自身、関連のないメールを多数受け取っており「まだ改善の余地はある」としながらも、今後「適切な相手」を選ぶ点においてはPredictive Analytics(予測分析)の力を借りて強化されるだろうとのことでした。PredictiveというワードはThe Marketing Nation Summitなど今年はいろいろな場面で耳にする機会も多かったので、今後ますます主流になっていくのかもしれません。

自社のマーケティング評価指標

また、コトラー氏は自社のマーケティングを評価するためのチェックポイントとして、以下の9つの項目を掲げました。

  1. 新しい機会を見出している
  2. マーケティングリサーチや分析を実施している
  3. 革新的である
  4. 効果的なコミュニケーションがとれている
  5. 営業チームがうまく機能している
  6. 各チャネルを効果的に利用している(クロスチャネルとして機能)
  7. マーケティング戦略がよく練られている
  8. マーケティングのための組織が整っている
  9. 社会的責任や環境への配慮している
    (合計:1問5点x9=45点満点)

「満点の企業の人はいますか」という問いかけに対し反応した出席者はいなかったようですが、コトラー氏自身「満点の会社があればそこの株を買いたい。35点以上でもいい」とコメントしていたことから、上記はあくまで目指すべき理想ということなのかもしれません。また、定性的な指標ということもあり「マネジメント層が評価をすると点数も異なるだろう」というのは納得でした。

人間の脳の動きが購買意思に与える影響とは

二つ目の講演は、神経科学の教授による脳の働きがテーマでした。購買決定プロセスにおいて、実際に買おうと思っていたものと違うものを買ってしまうのは、脳の左右の役割が関係しているとのことで、実験結果も含めた解説がありました。今回のイベントにおいては異色の講演でしたが、内容としては興味深いものでした。潜在意識マーケティングという言葉はありますが、今後、技術によってそういった手法が主流になる、または神経科学マーケティングといったような言葉が出てくるようになるのでしょうか。

パネルディスカッション①:Marketing in Today’s Disruptive World

本イベントのテーマでもある「Marketing in Today’s Disruptive World」と題したパネルディスカッションでは、カナダのマーケティング協会の代表者やMastercardのマーケティング担当者などを招いて議論が行われました。
顧客の信頼を得ることは昔から重要だったが現在ではそれがもっと複雑になっている、ソーシャルの声を管理するには良い人材を雇うことが重要だ、などの意見があがっていました。
ネット上に広がるユーザーレビューに対して「ファクトチェックをする第三者機関は必要か」という問いがあり、個人的にはあっても良いのではと感じましたが「ユーザーレビューのレビューサイトがあるくらいなので、キリがなくなる」という意見にも納得しました。

パネルディスカッション②:AIや機械学習がもたらしたマーケティング変革

二つ目のパネルディスカッションはAIと機械学習がテーマで、マイクロソフト・カナダのマーケティングチーフ、Katia Houbiguian氏を含む3人のマーケティング関係者によるディスカッションでした。

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カナダでは銀行やカスタマーサービスなど一部の大企業しかまだAIを取り入れていない、中規模企業でも使えるようなツールを提供してほしいとの意見でした。その意味で、セールスフォース社が研究しているチャットボットのような機能は重要であると述べ、クラウドサービスを通じて中小企業でもAI技術を享受できるようになることが期待されているようです。一方で、プライバシーを懸念する声もあり、利用を始めている大企業が責任をもって良識ある使い方をすることが期待されるとして、議論は締めくくられました。

クロージングキーノート:21世紀のポジショニング~テコ入れの必要性~

最後の講演は、ブランディングコンサルタントのLaura Ries氏(父親はポジショニング戦略の書籍で有名なAl Ries氏)による「21世紀のポジショニング」というテーマで実施されました。

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Ries氏は、今までのマーケティングや広告の戦略では、印象に残るキャッチコピーなど「言葉」が効果的だったのに対し、あらゆる世界がつながっている今は、言葉の壁がない「ビジュアル」がポジショニングにおいて重要であると説明。そして、ビジュアルのテコ入れのために重要なポイントについて解説しました。ビジュアルということで、当然ながら色、形、ロゴやパッケージなどデザインに関わる部分が多くポイントとしてあがっていましたが、個人的に面白いと思ったのが「動物の起用」という点です。

有名なところでは、アフラックのアヒルやTwitterの鳥の例などがあげられておりましたが、それ以外にも、ひまわりからトラにロゴを変えた海外のコンサルティング会社の例なども紹介されていました。ロゴに動物を使う企業はBtoBではあまり多くないと思いますが、サンブリッジのロゴを動物にするなら何が良いだろうか…と考えながら会場を後にしました。

トロントの会場は、混雑によるストレスもなく円卓形式の和やかな雰囲気でした。今年の東京の開催日は12月8日(金)と間もなくですが、来年以降また機会があれば参加してみたいと思います。

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