顧客接点チャネルの多様化と個人データの統合 導入前に知っておきたいマーケティングオートメーションの基礎知識(第3回)

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第2回では、マーケティングオートメーションが注目される背景の1つ目として、「顧客の購買行動の変化」について説明をしました。

今回は、2つ目の背景である「顧客接点チャネルの多様化と個人データの統合」について説明をします。

1.顧客接点チャネルの変遷とオムニチャネル

インターネットは購買前の情報収集に利用されるだけでなく、顧客と企業との双方向コミュニケーションや、ECのように実際に取引をする場など、顧客接点チャネルとしての利用が拡大しています。さらに近年では、「オムニチャネル」という概念が提唱されています。「オムニ」とは、ラテン語を語源とする「全て」を意味する造語です。そして、オムニチャネルとは「全てのチャネルを相互に関連を持ちながら有機的に融合させ、複数チャネル間を横断して接触する顧客を1人の顧客として捉える」ことを指します。

これまで、顧客接点チャネルについては、シングルチャネル、マルチチャネル、クロスチャネルといった概念が提示されて来ましたが、これらとオムニチャネルは何が異なるのでしょうか?オムニチャネルに至るチャネルの変遷を確認してみましょう(図1)。

図1 顧客接点チャネルの変遷
出典:National Retail Federation(2011年)、
「オムニチャネルで大規模小売チェーンはどのように進化するのか?」(2014年)

チャネル シングルチャネル マルチチャネル クロスチャネル オムニチャネル
年代 ~1999年 ~2005年 ~2010年 2011年~
企業と顧客の接点変化 シングルチャネル マルチチャネル クロスチャネル オムニチャネル
特徴 単一接点 個別に複数接点 複数接点がクロス
顧客管理は個別
すべての接点を融合
顧客管理も融合
  1. シングルチャネル
    実店舗や営業マンなど、インターネット以前から存在する顧客接点はシングルチャネルで、顧客側からも企業側からも関係は1対1です。時代の変遷と共にカタログ販売やTVショッピングなどの通販チャネルが出現しましたが、やはりここでも顧客と企業は1対1のシングルチャネルでした。
  2. マルチチャネル
    シングルチャネルが複数出現してくると、それをマルチチャネルと言うようになりました(大島 2012)。マルチチャネルは、実店舗、営業マン、カタログ・TV通販、ECなど、複数のチャネルで企業と顧客が接する事を意味しています。しかし、これは接点を複数用意しただけに過ぎず、チャネル毎にサービス内容や顧客データの管理が異なっていたので、チャネルの融合とは言えませんでした。
  3. クロスチャネル
    マルチチャネルの高度化が進むと、カタログやECで注文した商品を店頭で受け取れると言ったチャネルを連携した取引が可能になりました。顧客側からはチャネル同士の関係がクロスして見えるため、ここからクロスチャネルの概念が生まれました。
    一見、マルチチャンネルとクロスチャネルは似ているのですが、「購入はWEB、受け取りは店舗」など、顧客の都合に合わせてチャネルを選択できる自由度が高まっている点がクロスチャネルの特徴です。一方、クロスチャネルでチャネル間の業務連携は進みましたが、顧客データの管理はチャネル別になっているケースが、依然として多くありました(大島 2012)。
  4. オムニチャネル
    オムニチャネルでは、業務オペレーションと顧客データの管理がチャネル間で連携されるようになり、顧客がどのチャネルから接触をしても同じ1人の顧客としてサービスを受けることが可能となりました(田中 2014)。
    これにより、顧客はどのチャネルからでも同質の利便性で商品を購入したり、サービスを受けられるといったメリットがあります。一方、企業側は、複数のチャネルを設置することで顧客との接触機会が増やせたり、複数のチャネルでの顧客の行動を記録・一元管理することで、行動特性から新たな販売機会を予測したり、属性情報と行動情報を組み合わせた詳細なセグメンテーション行う事で、よりパーソナライズ化したプロモーションを実施するなど、高度なマーケティングを実施することが可能になりました。

2. インターネット上の個人を捉える技術の発達

オムニチャネル化が進展した理由としては技術的な背景があります。それは、これまでは実現が難しかったインターネット上での個人特定、行動履歴の取得と蓄積が技術的に可能になった事です。企業は、コーポレートWEBサイト、ブランドWEBサイト、ソーシャル・メディアアカウントなど、自社のインターネット・チャネルを利用して顧客に対して情報発信を行ってきました。そこでは、顧客の氏名、属性などの個人情報を取得することまではできましたが、会員制サイトなど一部のWEBサイトを除くと、その顧客がどのチャネルを訪問したか、どのページを閲覧したか、どのボタンをクリックしたか、どの資料をダウンロードしたかなど、それら個人の行動を把握することは大変困難でした。さらに、それら行動から発生するデータは「行動ログデータ」と言われ、膨大なデータ量になり、その管理には大容量のストレージが必要でした。
しかし、この数年でWEB技術は急速な発達を遂げ、自社のインターネット・チャネルに訪れた個人を特定し、その行動履歴も併せて取得し、それを保管・再利用することが可能となりました。この実現には「ビッグデータ」の存在があります(図2)。

図2 ビッグデータの概念
出典:総務省「平成24年度版通信白書

ビッグデータの概念

従来、大量の行動ログデータを蓄積するには高性能・大容量のストレージや、高度なデータ負荷分散技術が必要でした。また、個別に取得したログデータを関連付けて分析するなどのデータの再利用には、高速にデータを処理する演算技術や高度な統計解析ソフトウェアなどが必要で、実現には莫大な投資を伴いました。そのため、大量のログデータを活かしたマーケティングを実施できるのは、資金力のある一部の大企業が中心でした。 しかし近年、IaaS(Infrastructure as a Service)、SaaS(Software as a Service)、PaaS(Plat form as a Service)など、必要なときに必要なだけサーバやソフトウェアを利用するクラウドサービスが急速に発達しました。このおかげで、自社でシステムを構築したり、高額なソフトウェアを購入せずとも、大量データの蓄積・再利用が従来と比較してより手軽に、安価に実現できるようになったのです(厂崎 2015)。

次回は「(3)労働生産性向上ニーズの拡大」について説明をします。

今回のポイント

  • オムニチャネルの思想と、それを支えるビッグデータの技術によって、リアル、ネットの複数チャネルから接触する顧客を、一人の顧客として捉える事が可能になった。

参考文献・資料

  1. 大島誠(2012)「オムニチャネル時代到来」『ダイヤモンド・オンライン』
    http://diamond.jp/articles/-/21995?page=2
  2. 田中秀樹(2014)「オムニチャネルで大規模小売チェーンはどのように進化するのか?」『富士通総研コラム』
    http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/cyber/column/omuni.html
  3. 厂崎敬一郎(2015)『図解入門ビジネス クラウド未導入企業のための クラウド型パッケージがよ~くわかる本 (How‐nual Business Guide Book)』秀和システム
  4. 総務省(2012)「平成24年度版 情報通信白書」
  5. National Retail Federation(2011), ”Mobile Retailing Blueprint V2.0.,” A Joint White Paper sponsored by the National Retail Federation,1-2

執筆者

片桐英毅 株式会社サンブリッジ クラウドマーケティング事業部長

大手企業Webサイトの戦略立案、関連する業務改善コンサルティングを担当。直近では、マーケティングオートメーションの導入・戦略コンサルティングを担当。大学院でマーケティング研究を行う研究者でもあり、執筆、学会発表など実績多数。経営システム科学修士(MSM)、経営管理学修士(MBA)、経営学博士課程単位習得退学。現在は国立大学のMBA Program in International Businessに在籍し、インターナショナルビジネス・マネジメントを研究。